コロナウイルス流行期間中の定時株主総会対応

2020年初頭から流行している新型コロナウイルス(COVID-19)の影響により、毎年行っている定時株主総会対応に関し、中小企業の現場で、少なからざる混乱や疑問が生じることが予想されます。

それを見越してか、法務省及び経済産業省が、WEBページで定時株主総会対応についての見解を表明しています。(なお、東日本大震災時にも、ほぼ同じ内容のものが出ています)

法務省:http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00021.html

経済産業省:https://www.meti.go.jp/covid-19/kabunushi_sokai.html

本稿では、中小企業法務に携わる司法書士の立場から、上記WEBページで表明された内容や、その法務における背景を踏まえつつ解説したうえ、会社法上認められた代替テクニックもご紹介します。

定時株主総会とは

定時株主総会とは、株式会社が毎年1回の開催を義務付けられた株主総会です。

定時株主総会で行う会社の決議として、会社法上の義務にかかってくるのは

・事業の報告

・決算関係書類の承認(又は報告)

・任期到来する役員の改選

といった報告・議題です。

会社によってはこの他に、役員報酬の決定や、剰余金の配当を行うこともあります。また、会社法で定められたもの以外にも、前期の結果を踏まえた今期以降の展望や課題等を、株主に説明する議題が盛り込まれることもあります。

法律面・経営計画面の双方から、前年度の総括と、今年度以降の在り方について、株主へ説明責任を果たす場というイメージです。

 

開催時期の慣行――3か月以内のワケ

定時株主総会の開催根拠は会社法第296条です。

会社法第296
  1. 定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない。
  2. 株主総会は、必要がある場合には、いつでも、招集することができる。
  3. 株主総会は、次条第4項の規定により招集する場合を除き、取締役が招集する。

 

上記のように、定時株主総会は「一定の時期に」招集するとあるのみで、開催時期に明確な定めがありません。

にもかかわらず、多くの会社では、下記のように定款で、定時株主総会は「3か月内に開催する」と定め、その通りに開催しています。

定款規定

(第X条)当会社の定時株主総会は、毎事業年度末日の翌日から3か月以内に招集し、臨時株主総会は、必要に応じて招集する。

 

この「3か月」規定をわざわざ置く理由は、税務との兼ね合いです。

決算関係書類は、定時株主総会において決議にかけ、会社のオーナーとして株主が承認すること(または上場企業の場合、事前に会計監査人による監査を受け、その旨を役員が報告すること)で確定し、税務申告のための書類として使用できるようになります。

税務申告の期間は年度末から2か月間が原則ですが、期間延長の制度を使うことで3か月間に伸ばすことができるとされています。

このような会社法務と税務の両方の平仄を合わせる形で、「3か月以内開催」という定款規定と業務慣行がスタンダードとなっています。

具体的には、3月末締めの会社の場合、

①4月前後、会計担当者が計算書類調製/役員による事業報告作成

②5月~6月前半ごろまでに株主総会を招集

③6月後半で定時株主総会開催

④確定した決算書類をもとにした税務申告/定款変更や役員改選がある場合には登記申請

というのが、どの会社にとっても自然なモデルスケジュールになるわけです。

 

集まれない場合のテクニック

前述のように、企業法務においては、税務と法務の兼ね合いから、3か月以内の定時総会開催がスタンダードです。

しかし、今回のコロナウイルス大流行によって、多くの会社でイベントや会合の回避が望まれる事態が生じています。

そうした場合にどうすればよいか、以下で対応を具体的に紹介します。

 

①延期対応

今回、経済産業省及び法務省の見解によって、公式に確認された方法です。定時株主総会が開催できない場合、下記の見解のように税法上の災害時等における申告猶予の申出を行ったうえ、株主総会の延期対応が可能です。

法務省のWEBページより抜粋

定時株主総会の開催時期に関する定款の定めがある場合でも,通常,天災その他の事由によりその時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じたときまで,その時期に定時株主総会を開催することを要求する趣旨ではないと考えられます。

したがって,今般の新型コロナウイルス感染症に関連し,定款で定めた時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合には,その状況が解消された後合理的な期間内に定時株主総会を開催すれば足りるものと考えられます。

 

経済産業省のWEBページより抜粋

なお、事業年度終了後から3ヶ月を越えて定時株主総会を開催することとなる場合については、事業年度終了の日から3ヶ月以内に定時株主総会が招集されない状況にあると確認できる書類を添付することで、法人税の申告期限の延長申請を行うことができます(法人税法第75条の2)。

 

ただしこの場合、延期された株主総会に合わせて、あらためて議決権行使できる株主を定める「基準日」を設け、公告をする必要があります。延期に関しては、この基準日設定の手続きのハードルが高くなってくることが考えられます。

 

※役員任期について

役員の任期は、定款で定めた年数にしたがい、対応する定時株主総会の終結時をもって満了します。そのため、同じ総会で後任候補者の選任議案を立て、役員改選を行うのが通常の取り扱いです。

この点、延期によって3か月以内に開催できなかった場合には、「通常開催される予定の期間の終結」によって任期が満了することになるのが、法務省の登記先例の取り扱いです。

3月末締めの会社で、上記「3か月内開催」の定款規定がある株式会社では、株主総会が6月30日までに開かれない場合、形式的には6月30日の経過で任期満了します。

しかし、延期等で改選決議ができず、欠員が生じているため、前任者は、後任者選任までの間「権利義務役員」として役員の権利義務をなお有します。

新役員の選任による交代は、あくまで延期された株主総会で行うことになり、それまでの間は、前任者が職務執行権限を持ち、その責任も生じるということになります。

 

②「委任状」を利用する

中小企業や法人で総会の事務を担当したことのある方であればおなじみですが、召集通知に同封する議決権行使の「委任状」を取り付ける方法もあります。

株主の数がそう多くなく、議案についても、決議要件を満たせるだけのコンセンサスが得られている場合には、委任状を提出してもらい、当日は少人数で総会を執り行う対応が有効となりえます。

 

③「みなし決議」(決議の省略)を利用する

他に会社法上認められたテクニックとしては、会社法第319条の「みなし決議」(「決議の省略」)を利用することが有効です。

会社法第319条
  1. 取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき株主(当該事項について議決権を行使することができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす。
  2. 株式会社は、前項の規定により株主総会の決議があったものとみなされた日から十年間、同項の書面又は電磁的記録をその本店に備え置かなければならない。
  3. 株主及び債権者は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。
    一 前項の書面の閲覧又は謄写の請求
    二 前項の電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求
  4. 株式会社の親会社社員は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、第2項の書面又は電磁的記録について前項各号に掲げる請求をすることができる。
  5. 第1項の規定により定時株主総会の目的である事項のすべてについての提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなされた場合には、その時に当該定時株主総会が終結したものとみなす。

 

こちらは、取締役または株主が議案内容をすべて記載した提案書を交付し、議決権行使できるすべての株主の同意書を得ることで、現実に株主総会を開催することなく、決議があったものとみなすことができる手続きです。

なお、上述のように定時株主総会では決算書類の承認のほかに事業報告も必要ですが、報告についても同意により省略できるとされている(会社法320条)ため、決議事項及び報告事項を盛り込んだ提案書を交付し、同意を得ることで、定時株主総会のすべてのメニューに対応することができます。

ただし、注意すべきなのは、決議要件を満たせば足りる委任状の場合とは異なり、議決権行使可能な株主の「全員」の同意が要請される点です。

株主が少数で、全員の同意が容易に得られる場合には便利な手続きですが、一人でも決議に同意しない者がおり、同意書が取れない場合には、この手続きはできません。

また、この手続きによる場合であっても、株主総会議事録の作成を省略することはできず、その旨を盛り込んだ議事録作成が必要となります。

 

株主数等の個別状況に応じてご対応ください

比較的株主数が少なく、株主の顔も見わたせるような企業であれば、②の委任状または③の「みなし決議」での対応により、事なきを得られることも多いかと思います。

議題の性質や重要度等も勘案し、②または③で対応できないケースでは、①の方法を検討すべき場合が出てくるでしょう。

また実際に開催する場合であっても、設備があれば、テレビ電話会議を採用するなどの選択肢もありますので、個別の状況に応じて対応を決定することとなるでしょう。

 

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